いろいろあるんですよ

3/14に収録されたTV番組が昨日放映された。(○の○んたの激論!○者ズバッ)ひょんなことから出演させていただいたのだが、その裏側というか悪あがきであるが感想と言い訳を。

とにかく自分の言いたいことの10分の1も言えなかった
理由1:初めての経験であったこと。何もかもが初めての経験で、次にどのようなことが予想されるか分からなかったこと。
テレビ出演に慣れている他の医師の方は、非常にうまく発言のタイミングや言葉選びをされていました。(医師としてテレビ出演に慣れることの是非は別として)

  • >研修医に対してや指導医養成講習会では「ストレスのない練習の状況で、ゆっくりやって出来ないものは本番絶対に出来ません」といっているにも関わらず、練習なしのぶっつけ本番だったので無理ありません。

理由2:司会のM氏がここでふってくれます、などの打ち合わせがあったのに、その通りには全く進まなかったこと。司会にふられるまで発言をしてはいけないと思っていたので(後半になってそうではないと他の出演者の行動を見て気づいた)、前半はほとんど発言できなかったこと。(前半の「専門医のワナ、かかりつけ医」のところで最も発言を期待されていたはずなのだが、自分から手を上げないと発言できないことに気づいて頑張り始めたのは後半。)。撮影の数日前にディレクターと電話で1時間ほどはなしをして、それに基づいて当日の進行表は医師ごとに、ここでこういうことを振られますから、このような発言を、と綿密な準備をされていたにもかかわらず(それに基づいてきちんとした発言が出きるようになるために、セリフや文献上のデータなどしっかり準備していたにも関わらず)、M氏はほとんどそれとは関係なく自分のペースで、自分のやり方で、ほとんどアドリブで進行していたので、(おそらくほとんど準備なしのぶっつけでしょう。そこがプロといえばプロなのですが)、前半は「え〜、全然発言をふってもらえない。どうなってんの〜」状態だったこと。

  • >当日はこんなことがこんなふうに進みますよと事前に言っておいてもらえる(aniticipatory guidance)のとそうでないのとは大きな違いがある。知らせてもらっていても当日全然違うとやっぱり戸惑いや不安は大きい。

理由3:かなり区別(半ば差別?)があったこと。実はあの医師の中にM氏の主治医や、よくテレビに出演している医師がいたのだが、撮影直前にM氏を含め芸能人ゲストが入って来たとき、あからさまに知り合いの医師には非常に社交的な挨拶や会話があったり、撮影中も(放映ではカットされていたが)明らかに、以前からの知り合いの医師にはfriendlyな対応だったり、頻繁に発言の機会を与えたり。まあ初対面の人との対応が違うのは仕方ない所はあるが、最初から「自分は業界人ではない(芸能人ではないという意味ではなく)」というのをいやおうなく強く意識させられた。それが萎縮の原因にもなったのだが。

感想:
誰にも初めてはある。どのようなことが起こるかも体験してみなければ分からない状況で、実はかなり準備もしたのだが、それは的の外れた準備も多かった。See one, Do oneのSeeの部分を飛ばすとどういうことになるかよく分かった。
M氏のM氏によるM氏のための番組だった。医師や芸能人ゲストはM氏を引き立てる飾りのようなもの。医師の意見をうまく引き出すfacilitatorの役割、というよりは本人のagendaが明確にあるshowmanであった(あたりまえだが)。そういう意味で撮影後の帰路は「自分の言いたいことがいっぱいあったのに、ほとんど聞いてもらえなかった、引き出してもらえなかった。」そのような不全感がいっぱい残った撮影であった。
ゲストのN氏「病院に行くと分からないことばかりで、不安で、話も聞いてもらえなくて、自分の居場所がないような気がして、自分がとても小さい存在のように感じるんですよ。その辺を忘れないでほしいです」Rさん「お医者さんにとっては日常的なことで大したことないんでしょうけど、私たちにとっては難しい言葉も多くて」などの発言が、実は自分にとってそのまま当てはまっていたのです。
テレビ撮影なんて、芸能人にとっては日常的なことで大したことではないんでしょうけど、こっちにとっては一大事で、何がどう起きるのかも分からず、不安で、話も聞いてもらえなくて、自分の居場所がないような、とても小さい存在のように感じ、とっても満足度が低かったのです。その当たりの気持ちに十分配慮できなかったテレビ業界の皆さん。気づいてくださいね。
しかしそのような立場でそのような感想を得られたことは、医療という現場で患者さんがどのような気持ちで医療機関に来ているのかを再確認し、自分の医療のやり方をもう一度振り返る大変良い機会でした。
何事も経験とはよくいったもので、全てが医師の仕事の肥やしになるのですね。

その他の良かったこと:発言は一つでしたが、事前のディレクターとの電話インタビューでの私の言葉「医者探しは恋人探し」が「良い医師を探すには」の部分のみ○のズバッ!で使われていたこと。また番組全体のまとめとしての言葉「医者選びも寿命のうち」もインタビューで私が出した言葉だったこと。
発言はあまり出来なかったが、他のDr.の発言の多くにも共感できたので、自分の伝えたいメッセージとしては多くを代弁してもらえたこと。他人を信じるというのは大事なことです。
撮影でお会いできた何人かのDr.と交流が始まったこと。有名な心臓外科医のN先生とはメル友になりました。隣に座っていらしたS先生からは著書を送っていただき、これからお礼のメールを書きます。
自分らしさが余り出せず、発言も今一つでしたが、少なくとも放映を見る感じではイメージダウンにはならなかったこと。

残念だったこと:もちろん自分らしさが出なかったこと。「家庭医療」という言葉を出せなかったこと。他のDrがいわゆる従来型の臓器疾患専門医->いきなり開業プライマリケアというパターンの人が多いなか、批判に取られないようにかつ自分の専門性をうまく言えなかったこと。(全国展開で医師会や、臓器専門医を敵に回す勇気はありませんでした)
あとどうしても言いたかったのに言えなかったこと2つ。

  • 議論が、医療機関や医師の選択肢がたくさんあるということが前提になっていること。地方では、好む好まざるによらず、その病院のその医者にかかるしかない、というような地域もたくさんある。気に入らなければそこにかからなければいい、という議論ではすまない地域がたくさんあるのに。
  • かなり専門領域のバランスよく20名の医師を集めていたが、それでも小児科医がいなかったこと(子供を診る医師は私がいましたが)本当に頑張っている人、本当の現状を訴えるべき人が、おそらくああいう場所に出てくる時間がない現実を訴えることが出来ませんでした。

芸能人と写真すら撮れなかったこと。先に医師はセットに座らされて、準備ができてから芸能人が入って来て、撮影が終わったら、先に芸能人が出ていってしまったので。サインも話も写真もなし。やっぱりあちらの世界の人なんですね。

番組についての感想:この話があってからずいぶん出演するか悩んだのですが、うちの院長から「自分もこの春院長になるんやからそのマーケティングのことも考えるように」といわれ、出演を決めましたが、(もちろん事前に番組の内容も聞いて、納得の上ですが)かなり医療不信を煽るような印象を視聴者に与えてしまったのではないかと思うような内容でした。再現フィルムは確かにそういう実例もあるでしょうが、それは本当に極端な例でしょうというようなものばかりで、優秀な医師も多いのに残念でした。(確かに質のばらつきは大きすぎますが)
我々医師自身がプロ集団としての意識を持って、もう一度信頼を回復するような活動をしていく必要があります。

負けず嫌いということはありますが、自分にとっては不本意だったこともあり、出来ればもう一度チャンスがあればと思っています。どなたかテレビ局の方、これに懲りずに声をかけてください??

参考-
この番組についての感想のblogがいくつか。TBをしたかったのですが、機能がついてないものも多かったのでこちらへ。
やっぱり批判的なものが多いです。
http://d.hatena.ne.jp/hiradakedo/20060324/1143215491#c
http://blog.goo.ne.jp/caramel-88/e/7586f7ade29ae8bf8e5f3450174ed6fd
http://blog.goo.ne.jp/kunoichi34/e/97e78d9255252bcb46b6f1867d5c2a63
http://blog.goo.ne.jp/toi92/e/d1af1a281512ee1e0c305c38d7b31188
http://www.doblog.com/weblog/myblog/46257/2420927#2420927
http://blog.livedoor.jp/okanoie_sh/archives/50460541.html?1143262544
http://rurofuku.269g.net/article/1881468.html?reload=2006-03-25T13:56:27
http://blog.livedoor.jp/aoi4620/archives/50321160.html?1143262623
http://maiyo.tea-nifty.com/brain/2006/03/post_e1aa.html (出演した医者一覧)